
zuiun便りvol.02|「良い家」って何だろう。
毎日がもっと豊かになる【zuiun便り】
日々の暮らしがより一層豊かになる住宅と家具を提案する石川県野々市市の建築会社『zuiun』によるコラム。何気ない毎日が特別になる〈豊かな〉住空間をつくるためのアイデアやルールをご紹介します。
住む人に愛される「良い家」
「あなたにとって、良い家ってどんな家ですか?」
そんな質問をされたら、あなたはなんと答えますか。
ある人は、暖かい省エネ住宅と言うでしょうし、またある人は、デザインの優れた家と言うかもしれません。人それそれに「良い家」の価値観が違うわけですから、回答者からすれば、すべてが正しい答えです。
現在はインターネットの発達により、情報過多の時代にあります。膨大な情報を閲覧するなかで、また新たな価値感を覚える人も多いはずです。価値観の多様化は、ユーザーニーズの多様化に直結しています。
だから、住宅の設計は難しい。
良い家って何なんでしょうか…本当に。
住宅の設計を仕事にしている以上、この思いからは逃れることができません。だけど「良い家って?」という問いに対しては、自分なりの答えを持っています。
良い家=愛される家
とても曖昧ですが、私はこれくらい曖昧な方が丁度良いと思っています。むしろ、限定的な考えを持つことのほうが間違った感覚なのかもしれないとも思っています。
耐震性能や高気密高断熱等、住宅の基本性能や機能が数値化して目に見えるようになりましたが、確かにそれも家づくりに欠かせない重要な要素と認めながらも、一番の重要事項だとは思っていません。
もっと大切なことは、どうすれば居心地が良くなるのか、どうすれば楽しめるのかを、住宅の機能として盛り込むことだと思います。それは、とても曖昧なこと。だけど確実に良い家に結びつくキーワードだと思っています。
近代建築の巨匠であるル・コルビジェは「住宅は住むための機械である」と言いました。
住宅を生活するための道具と例えれば、機能的で便利な方が良いように思いますが、その機能が一過性のものであった場合、便利が不便に変わってしまいます。なぜなら、たとえ現時点で最高の物や技術を取り入れたつもりでも、数年後には古くなって時代遅れになっている可能性が高いからです。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、家づくりを進めるうえで夢を追いすぎて細部のディティ ールにこだわり過ぎると、本当に大切な目的を見失ってしまうことがあります。本当に大切なことは、自分の家に帰るとほっとするとか、一番リラックスできるとか、気持ちや感情の部分にあると思います。
また、住宅のデザインにも同じことがいえます。なぜなら、住宅はデザインのみでは機能せず、機能の中にデザインを形成しなければならないからです。
例えば、玄関をどんなにモダンにつくろうとも、そこには子供の自転車がとまり、靴が並びます。それを隠す機能があって初めてデザインが成り立ちます。もしくは、そういう状況でもデザインがそこなわれない工夫をするかです。
車のように、何年か乗ったら買い換えるような買い替えスパンの短いものであれば、その時々の気分によってデザインを決めても良いと思いますが、住宅は長く使うことを前提にデザインを決定する必要があります。車は、古くなったりデザインに飽きれば買い替えをすれば良いのですが、住宅は例え古くなろうともデザインに飽きようとも、簡単に買い替えるわけには行きませんし、大切に住まなくてはならないわけです。
大切に住まうことの源泉は、気持ちや感情の部分にあると思います。つまり、愛着です。型式の古い車をあえて格好良く乗りこなしている人を見ると、車に対しての愛情を感じます。住宅もそれと同じ。

突然ですが、写真の家を見て、どういう印象を持つで しょうか?大概の人は、モダンで今っぽい住宅だと思われるのではないでしょうか。
実はこの家、東京都の有形文化財になっています。
別に、お寺でも教会でもありません。文化的に価値のある建物なので、有形文化財に認定されています。 この家の住人は、土浦亀城(つちうらかめき)という建築家で、この家が建てられたのは1935年なんです。信じがたい話ですが、事実なんです。
「良い家って何だろう…デザインって…」
この家を初めて見たときの感想です。

総ヒノキ造りの家や、極太の大黒柱で建てる家が価値あるものと思われていたような時代に、この家はどのような評価だったのでしょうか。少しでも広い家が良い家の絶対条件だった時代に、35坪のLDKワンルームでスキップフロアのこの家は、当時としてはモダン過ぎて、良い家の概念から外れた建物に見えたのではないでしょうか。
しかし80年以上経った今でも、その白い箱型の木造住宅は、微塵も古さを感じさせず、今も尚、歴史を刻みつづけています。
住宅産業に従事する人間は、この家に習うべきことがたくさんあると思います。住宅において本当の価値は、その場しのぎの一過性のものであるはずがありません。
住宅は、そこに住まう家族の使う道具です。大切に使うためにはそれ相応の思い入れが必要になります。その思入れが、やがて愛着になります。
良い家は、そこに住まう家族に愛されているはずです。そんな空気が流れている家は、ひょっとしたら地域からも愛されているかもしれません。
思い入れのある家だからこそ、ちゃんとメンテナンスして大切に扱われます。だから、愛着が湧きます。家族の変化によって多少不便が生じても、なんとか家族の工夫で問題をクリアします。そしてそれが、大切な思い出に変わります。そんな家は長持ちします。そして、家に対しての思い入れは継承され、住み継がれていきます。
思い入れは他人任せでは生まれません。家族の対話を重ねて、将来のビジョンを求めなければ本当に住みよい家なんてできるはずがありません。
家族が仲良くなる家を建てたつもりで、住宅会社の言われるままにリビングに動線が集まる間取りにしたとしても、家族の思いや同意がなければ、家族は仲良く住めないのではないでしょうか。結果、個室に閉じこもってしまい、住みづらい印象ばかりが残ってしまいます。せっかく長く住み継いでもらおうと万全をつくして造った家が、建替える必要もないのに、子供の世代で建替えてしまうといったことになりかねません。
良いデザインの家でも、住みづらい家もたくさんあります。 かといって、住まいにデザインは必要ないわけではありま せん。そこに住まう家族にとって愛着の湧くデザインの家でなければ、長く愛すことはできないと思います。そして、そのデザインは、家族の手によって、家族の変化にあわせて変わっていきます。そんな家は中に入ると、その家族の人柄が分かるような空気が漂っています。豪邸でなくても、十分に良い家になっているはずです。
良い家に定義はありません。性能やデザインが優れているからといって良い家ということではありません。なぜなら、性能やデザインは将来的には優れていないかもしれないからです。ただ、抽象的な部分にのみ「良い家」の定義が成り立つ可能性があります。
良い家=愛される家
そんな家をどうすればつくれるのか…。
住宅を設計する立場として、これからも考え続けていかねばなりません。
執筆者プロフィール
『zuiun』代表取締役 正理 善寛
2004年、建築設計事務所として創業。2006年、野々市市にてインテリアショップOPEN。2016年、金沢市にてカフェ・雑貨・アパレルを中心としたライフスタイルショップOPEN。「衣・食・住を通じて豊かな暮らし」の提案を行っている。
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