
ZUIUN便りVol.01|日常生活にデザインを。
毎日がもっと豊かになる【zuiun便り】
日々の暮らしがより一層豊かになる住宅と家具を提案する石川県野々市市の建築会社『zuiun』によるコラム。何気ない毎日が特別になる〈豊かな〉住空間をつくるためのアイデアやルールをご紹介します。
デザインを身近に感じる暮らし
私達の仕事は、住宅や店舗の空間をデザインする仕事です。
しかしデザインと一口に言っても、アートだったり、服飾だったり、広告、グラフィック、プロダクト…と かなり範囲が広いので、今回のコラムでは、身近な日常生活上にあるデザインに的を絞ります。そして先に結論を言うと、暮らしの中にデザインを求めることは、結果として、生活にゆとりを与え、豊かな気持ちにさせてくれる具体的な方法手段であるということです。
食器でいうと、かの美食家であった魯山人(ろさんじん)は、料理を盛り付ける食器によって料理が一層美味しく感じることに気づき、自ら食器の製作に心血を注いだということが陶芸家としての地位を築いたという有名な話がありますが、食器ほど使う目的に対して、デザインの意味が問われるものはないと思います。(場合によってはいらないこともあります)
例えばスーパーマーケットで購入してきた惣菜を皿に盛り付けず、ラップをはがしてそのまま食卓の上に並べ、家族でつつく…。極論をいえば、食事という目的は達成しているので別にそれでも良いわけなのですが、 食育という観点から見るとどうなんだろうと疑問が残ります。個々の価値観や立場によって感じ方はそれぞれだとは思います。確かに、私も一人暮らしの時期はそうすることもありましたし、皿洗いの煩わしさから開放されると感じていました。
しかし、生活の中でデザインを身近に感じることとは、目的を最小限で達成することに留まらず、少しでも豊かな時間を過ごせるように働きかけることだと思いますし、そういう価値観で生活を送ることではないでしょうか。そのためには、余裕ある思考を持つ習慣も必要になります(…と自分に言い聞かせています)。
例えば、自宅で晩酌するときに、つまみのキムチを小鉢に盛り付けるだけで、美味しいお酒に早変わりするとか(私の場合)。場合によっては、入れる器を考えたり、盛り付け方に工夫を凝らすことは、とても豊かな時間であり、クリエイティブな行為だと思います。

さて、私の仕事である住宅や店舗の設計は、使う(住む)人の日常空間をデザインする仕事です。 デザインに対しての考え方は個々に違うので、こちらの主張を通しすぎてもいけませんし、クライアント側から、色や形、大きさの好みを聞いて図面に表すだけでも、プロの仕事としては疑問符がつきます。 そういうと、とても難解な問題を解くかのようにデザインをつくり上げているのかと思われるかもしれませんが、そんな大それたことはしていません。
私達のような立場のデザインづくりとは、いうならば、クライアントのつくった料理を盛り付けるための器を一緒に選んでさし上げるようなイメージに近いと思います。
デザインができあがるまでのプロセスで大切に思うことは、使う人の日常の中に潜んでいるキーワードをなるべく具体的に取り上げて、明確な判断基準を設けてから、第三者的な意見や提案を行うことです。 そうすることで、クライアントがより深く自分の好みのデザインを理解し判断がしやすくなるため、 デザインは自ずと形になってくれると思います。
例えば、普段から和食をほとんど作らない(食べない)人が、素敵な和食器を購入した途端、急に和食派になることは少ないと思います。 普段から自分の嗜好を理解していないと、いくら素敵なデザインであったとしても、自分に合っていないために器の使い勝手が悪くなってしまいます。それは、住宅や、店舗のデザインも同じことなのです。
住宅であれば、雨風がしのげて、プライバシーが確保できていれば、最低限の機能は満たしているわけです。しかし、ちょっとデザインに目を向けることで、豊かな時間を過ごすことができます。
例えば観葉植物を飾ってみたり、本棚の本の背表紙の色を色別に並べてみたり、ラグマットの色を変えてみ たり…そんなちょっとしたことが、日常の気分を良くしてくれます。日常生活上にデザインを意識的に取り込むことは、 自分の好みと向き合い、どう使うのか、どう飾るのかを、楽しみながら、思考錯誤する行為なのです。
店舗デザインになると、よりしっかりとしたコンセプトワークが必要になってきます。
デザインを主観的に検討したり、客観的に検討したり、どう使うのか、どう演出するのか。お店で働く人が気に入ったデザインの中で仕事をすることは、職場に活気が生まれますし、ご来店客にも良い空気が伝わり、お客様にも受け入れられるデザインとなります。デザインは、お店の売り上げにも深く関わっているのです。
日常の中にデザインを求めることは、そんなに難しいことではありません。お部屋の掃除をした後に、爽快な気分になった経験は誰でもあるかと思いますが、そこからもう一歩踏み出して、綺麗な部屋を見回したとき「足りないものはなんだろう」と思える心の動きが、デザインを求める第一歩となるわけです。それが、日常生活を豊かでゆとりあるものに変えてくれるクリエイティブな思考なのではないでしょうか。

執筆者プロフィール
『zuiun』代表取締役 正理 善寛
2004年、建築設計事務所として創業。2006年、野々市市にてインテリアショップOPEN。2016年、金沢市にてカフェ・雑貨・アパレルを中心としたライフスタイルショップOPEN。「衣・食・住を通じて豊かな暮らし」の提案を行っている。
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