
小松の町家文化を守りたい!〈竹田建築〉の若き大工インタビュー
小松市中心部に残る多くの町家。
多くの人が町家暮らしに憧れはするものの、実際に住んだり店舗利用するためには、古い建物だけあって、ある程度の改修や補修は必要不可欠です。
そんな小松の町家の保全に積極的に取り組む〈竹田建築〉の四代目、竹田正史さんにお話を伺いました。
町家で暮らす、ということ
町家暮らしが注目されてますね
竹田さん:最近ではおしゃれな町家カフェができたりなど、若い世代の人からも町家が注目されるようになりましたね。しかし憧れはしても、実際住むとなるとハードルが高い。建物自体が古いので、寒かったり気密性が悪かったりして、若い人にとって快適かと言われると決してそうではないと思います。実際に小松の町家に住んでいらっしゃるのは、大多数が昔からずっと住んでいる高齢者の方が多いです。ただ、若い方のなかでも、そういった手のかかる町家をあえて選んで、ひとつひとつ自分たちの手を加えてアップデートしながら住んでみたいという方もいらっしゃいますね。
快適に住むにはリフォームが必須です!

町家を直すのは大変なんですか?
正直、全部壊して新築を建てた方が簡単でラクです。笑
竹田さん:町家の大きな特徴としては、隣とくっついているので光が入ってこない。暗いし寒いんです。現代的な暮らしをしようと思ったらある程度のリノベーションは必須です。空港が近い小松市という特性上、防音性の高いサッシに変えたり、あとは断熱性を高めようと思ったら、土壁を全部剥がして断熱材を充填してまた戻したりということをしないといけません。もちろん、キッチンやお風呂などの水まわりは全部修繕する必要があると思います。
あとはやってくれる業者を探すのも大変
竹田さん:町家のリノベーションはとにかく手間がかかるので、請負ってくれる業者がいなかったりするんです。おしゃれな新築を建ててくれるメーカーや大工さんは多いですが、こういう古くなった町家を直してくれるかというとそうではない。自分たちで作ったものではない、ましてや古い建物なので、リフォームするとなってもどこをどう直したら良いのか分からないという業者も多いと思います。
竹田建築にも町家リフォームの依頼って来るんですか?
竹田さん:ありがたいことによく声をかけてもらってますよ。ウチは大正10年から代々ずっと小松で大工をやっているので、古い建物に触れることも多いんです。古い町家の修理をするのに、大きなハウスメーカーや、おしゃれなデザイン住宅をやっている会社に相談しにくいじゃないですか。僕みたいに個人でやってる「街の大工さん」って必要なんだなと思いますよね。「雨漏りするんだけど」とか、「建具が開かない」とか。なかには「インターホンの調子が悪いんだけど」っていうのもありますよ。電気屋じゃないんだけどなと思いながら、地域の役に立てるならまあ何でも屋でいいかなと(笑)。

父の存在、そして4代目になるまで
大手メーカーと個人の大工の違いってなんですか?
小回りが効くところ!
竹田さん:僕ね、実は大学を卒業してから某大手ハウスメーカーに勤めたんです。いずれは家業を継ぐのかな…という漠然とした想いはあったものの、幼少の頃から父が仕事をする姿を見ていたので、なんとなく「ラクな仕事ではないな」と少し尻込みする気持ちがありました。ただ、全く関係ない仕事をするのも嫌だったので、ハウスメーカーの営業の仕事をしてみたんです。そうしたら、大手メーカーの構造が見えてきたというか、ひとつの家ができるのにこれだけの人が関わって、こういう経費がかかってくるんだなというのが分かった。システマチックに管理されているので、確かに高性能は担保されるし立派でカッコいい家には仕上がるんですが、一人ひとりの大工の技量に囚われないというか…。それはひとつの会社としてはすごいことなんですけど、でも自分はそのネジにはなりたくないなと思った。自分の腕ひとつでやっている父親の方が、単純にかっこいいなと思った。勝負してるというか。

どのタイミングで継ぐことになったの?
竹田さん:某ハウスメーカーを辞めたのが29歳の頃。最初は父親のもとに弟子入りしたんですが、1年後に父がガンになってしまいました。徐々に父は身体がしんどくなって僕に教えることができなくなってきたので、「修行してこい」と他の大工さんに口を聞いてくれました。「あの人のところで3年くらい修行したら食えるくらいにはなるから」と。ようやく3年経って帰ってきた日に、父は最後の入院。僕が修行から戻ったタイミングで、父はいなくなってしまいましたね。
まるで、4代目が独り立ちするのを待っていたみたいですね
今になって父のカッコ良さが分かります
竹田さん:技術は学びましたが、やはり父の後ろ盾がなくなったので、その時期は仕事が全くなくなってしまったんです。それで自分で動いて、いろんな会社に自分を売り込みに行ったんです。そのとき、父親はこういうこともやってたんだなと、改めてすごいな、カッコいいなと思いましたね。父が建てた建物って実際、あまり見る機会はなかったんですよ。ただ、小松で代々長く大工をやっている会社なので、「昔あなたのところで家を建ててもらった」とか「あなたのお父さんには世話になったのよ」と言われたり感謝されたりして。あとは父と一緒に仕事してた百戦錬磨の親方衆みたいな人たちがいるんですが、その方達とたまに飲みに行くと、面白い親父やったとか、仕事真面目な人やったとか教えてくれたり。自分が子供の頃は分からなかったですが、いろいろと大変やったんやなというのがようやく今分かりますね。
「昔気質」というカッコ良さ
竹田建築の特徴は?
製材からやってるところです

竹田さん:今どき珍しく、製材からやっているのが特徴ですね。最近の家づくりだと、プレカットで全部製材されたものを発注するのが主流なんですが、ウチは昔ながらの大工として製材からやっています。職人っていうのは、仕事をやってる姿を近所の人に見てもらって「あの大工さん一生懸命仕事してるからウチも頼もうかな」なんて言って仕事を受けるスタイルなんですよ、地域の大工さんって。こうやって地域で実直に仕事をしていって、地域の人にそれを見てもらって頼ってもらえるような存在になれれば。困ってる人の役に立ちたいというか、お抱え大工みたいに思ってくれる人がいるのが誇りですね。
製材所を持ってる強みはなんですか?
竹田さん:加工も自分たちでできるので、余分な業者を介さない分、製材所を持っていない大工さんに頼むより安くできると思いますよ。職人的には、雨の日も仕事ができるのが良いですね。雨の日に合羽きて現場仕事したくないじゃないですか。集中できないし、良い仕事ができない。雨の日は製材、晴れたら現場。誰にも縛られない!天気にも縛られない!笑

「街の大工さん」の必要性
街の人から頼りにされてるんですね
頼みやすいんだと思います。単純に。
竹田さん:メーカーに頼むまでもないちょっとしたことを相談してもらうことが多いですね。頼りにされてるというか、本当に頼めるところがないんだと思います。町家に住んでいる高齢者の方は、雑誌に広告出してるようなオシャレな会社に頼みにくいじゃないですか。それにやはり高いのかなと思ったり、よその会社で建てた家を直してくれるのかなとか。それこそポカジャン着た地域の大工さんの方が「ちょっとちょっと見てま」って頼みやすいじゃないですか。そういうことだと思いますよ。
確かに、家の修繕って相場がわからないですもんね
竹田さん:そうなんですよ。ハウスメーカーだといろんな人が関わってくるのでいろんな価格が乗っかってきちゃうんですが、個人だと自分一人の工賃と材料代しかかからないので、適正価格としては相当激安にできると思うんですよね。それに生活が大変そうなところには、たくさん利益を乗っけて請求なんてできませんから。真っ当な人間であるために、真っ当な金額でしかできないなと思っています。あとは「大工さんありがとう」という言葉があれば。
業界的には若い層は育ってますか?
ぜんぜん!笑
竹田さん:修行期間が長い、下積み期間が長いっていうイメージがあるのか、若い人はまずやりたがらないですね。大して華やかでもないのに、儲かるかどうか分からないみたいな。でも、そこは自分が頑張って背中を見せて、若手の大工にカッコいいなって思ってもらえるような存在でありたいなと思いますね。誰にも縛られず、自分の腕っぷし一本で経済活動をしているのが昔ながらの大工。僕はカッコいいと思いますよ。
僕が次世代に「大工ってカッコいいな」って思われるアイコンにならなくちゃですね!笑

竹田建築
石川県小松市大文字町120
TEL.090-5685-2589