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住空間学④|住空間のスタンダード【後編】

インテリアを考えるコラム【住空間学】
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ〈空間コンダクター〉駒井佑至が語る、美しい暮らしとなる〈住空間〉とは。


住空間のスタンダード【前編】より続く。

最初にお伝えしておくのは、本稿の内容は決して家づくりにおける制限ではなく、暮らしの心地よさを高めるための基準であり、空間づくりの土台をフラットに近づけていくために大切にしたいことです。

土台を整え、個性的なデザインや好みなどを足し算をすることで、これからの自分らしい住空間をつくる参考にしていただければ幸いです。

家具、照明、カーテンを
インテリアプラン前にある程度イメージしておく

「インテリアは、建物の打ち合わせが終わる頃に探しに行けば大丈夫」と思っている方は、特に意識していただきたいです。

インテリアの選択肢は、ほぼ確実に、納期や工事の関係で大幅に狭まります。

実際にはすぐ購入に至るわけではないので「探しはじめてイメージが固まって購入するまでの期間」に加え「発注後の納期」の期間がかかります。

また、インテリアは在庫がない商品にまで選択肢を広げた方が、理想に近いデザインを選ぶことが可能です。

参考までに納期の目安は下記です。

国産家具、照明
在庫:1〜2週間
受注生産:1〜3か月

輸入家具、照明
国内在庫:2〜3週間
海外在庫:1〜3か月
受注生産:4〜7か月

住宅会社を検討する前にインテリアショップを巡って暮らしのイメージをつくる方も少なくありません。むしろ、ある程度暮らしをイメージできているのであれば、その場のスタッフに声をかけ、住宅会社を近くで見ているインテリアショップスタッフの生の声を聞いて、暮らしのイメージに合わせておすすめの住宅会社の情報収集をするのも一つの方法です。

さらに、家具を考えることで、ダイニングでの団欒、ソファでゆったりくつろぐ、デスクスペースの必要性の有無など、暮らし方やそれに必要なサイズ感がイメージできます。

下記の3つは特に重要です。

・ダイニングテーブルのサイズ
・ソファのサイズ
・ベッドのサイズ

ある程度具体的にインテリアがイメージできていれば、設計に活かすことができ、必要な照明の種類や場所を決定する要素になります。

一般の方々にとって、建てた家に暮らしを合わせるのが目的ではなくて、暮らしに合った家を建てることが目的のはずです。

しかし、これがよく逆転しがちなのも事実です。

理想のイメージによっては、土地やマンション自体の検討すら変わってくるかもしれません。 理想と現実の違いがあったとしても、ある程度早い段階で気づくことができれば、理想に近づく方法を検討するきっかけになります。

カーテンは納期が1か月未満が平均のため最優先ではないですが、設計段階で少しだけでもイメージできれば、カーテンボックスの必要性や窓サイズ、周囲の家具配置などを決める際に適したものを選ぶことができます。時に、不要なものを事前に無くすことでコスト削減にもつながります。

SNSや海外の事例、ハイコストのモデルハウスを鵜呑みにしない

SNSや画像検索アプリで見つけた空間が、皆さんの暮らしにとって最適なものとは限りません。空間づくりは全体のバランスが重要なため、部分的に見た目だけを真似しても、コストや仕上がりは大きく異なります。

そして、これらの中には間違った情報も少なくありません。

モデルハウスを見学される際は、実際にその物件を建てたら建設費がいくらかかるのか聞いてみることをおすすめします。

そもそも実現可能かどうか、自分たちの家づくりや暮らしに合っているか、実際にはどのような仕上がりになるかなどを確認したうえで進めることが望ましいです。

木材・色・金属の統一

全ての素材を統一しなければいけないという訳ではありませんが、選択に迷ったときに選ぶものを決めておくことで、イメージした空間に近づきやすい場合が多くあります。 特に、家づくりでは決めることの多い3点をあらかじめ決めておくことをおすすめしています。

・木材
床や建具、家具などにおける木材
例:オーク(ナラ)、ウォールナット(クルミ)など

・塗装の色
窓のサッシや建具、取手などにおける色
例:白、黒、シルバーなど

・金属
建具、取手、水栓などにおける金属
例:真鍮、ステンレスやクローム、アイアン(ブラック)など

壁の素材を統一する

家全体の壁紙が全て同じでも不安になる必要はありません。むしろ、塗壁のように 統一感が生まれてすっきりします。

アクセントクロスの入れ方については別のコラムで詳しくお話しする予定ですが、壁紙は一度貼ると交換しづらいので、個人的には壁紙でアクセントを入れることはあまりおすすめしていません。

壁紙に限らずアクセントになるものは建物全体の10%程度であることが望ましいといわれていますが、建物自体にアクセントクロスを貼ってしまうと、そこにもっと魅力的なアクセントとなる家具や照明や雑貨などを置いたとき、それらが埋もれてしまう可能性が大いにあります。

何か足さないと不安になる気持ちは仕方ありません。しかし、アクセントはあとからでも足せると考えて「家だけで見ると何か寂しいくらいがちょうどいい」と意識していただけると安心して打ち合わせができると思います。

天井、壁でベースをしっかり整え、整えたキャンバスの上に絵を描いていくような感覚で、板張り天井やタイル、家具などといった好きなものを追加していくと、本来イメージしていた主役にしっかりとスポットライトの当たった空間づくりに近づくと思います。

○○調を避ける

コストとの兼ね合いもありますが、本物かどうかにはこだわって損はないと思います。

木目調より木、石目調より石といったように、自然に包まれているような居心地の良さを感じられる素材を選んでいくのがおすすめです。 シートはあくまでシートです。どれだけリアルになっても、1mm削れば中身が見えてしまいます。

自然素材の持つ「感性に与える力」には敵いません。人生を作りあげていく家だからこそ、建ったときがピークで経年劣化していくものではなく、エイジングしてより愛着が湧いていくものを優先してほしいです。

コストを優先する場合は、フェイクを使わずに白を選ぶ潔さも必要です。コストバランスも重要ですので、全て本物である必要はありませんが、迷ったときに選ぶ基準にしていただければと思います。

線を揃える

 窓や棚の位置や高さなど、立体にしたときに見えてくる線を意識的に合わせることで、全てのインテリアが建物の一部として溶け込み、美しい空間となります。 選択に迷った際、何かに合わせることを意識すると決めやすい上に空間に一貫性が生まれます。

端から端まで、上から下までを意識する

棚や建具、カーテンなどのサイズを決める際に意識することで、空間に綺麗な線が生まれます。 さらに、先ほどの線を合わせることと組み合わせると、より一貫性のある空間づくりにつながります。

機械的な見た目のものを目立たせない

冷蔵庫、エアコン、換気扇、火災報知器、スイッチ、コンセントなど、それらは暮らしに必須ではありますが、自然な質感を損いがちです。

無くしたり、隠したりするのは難しいので、目立ちにくい場所を優先して選ぶことで、柔らかく自然な印象の空気感を生むことができます。

・リモコンやモニター類は目立ちにくい場所に集合させる
・普段押す必要のない人感照明のスイッチは見えない場所に設置する
・スイッチの高さを目線に入りにくく、押しやすい高さに設置する(床から90〜110cm程度)

また、建具の取っ手の高さに合わせるのも綺麗です。

照明は必要な場所に必要なだけを意識する

必要な場所に必要なだけ照明を配置することで、落ち着いた灯りの中で過ごすことができます。 特に、天井に必要以上に照明をつけないで、適材適所に必要な場所を部分的に照らすイメージで照明を検討すると、同じ面積でも奥行きを感じる空間になります。

照明は後々減らしたくても減らすのが難しいため、足りなければ後からスタンドライトを置くなどして足せるという気持ちで不安にならずに計画すると、全体がただ明るく照らされたのっぺりした空間にならず、穏やかな気持ちを生んでくれるような空間づくりにつながります。

時には、必要のない照明を消して落ち着いた灯りの中で過ごすことができます。

造作だけが正義ではない

一般的に既製品より造作の方がコストがかかることが多いです。そして、一部の場合を除いて、造作の方がデザイン性に優れています。

しかし、性能やデザインにこだわることでコストも上がっていきます。

全てフルコストをかけれれば問題はありませんが、ある造作のために上昇したコストが今後の選択肢を狭める原因になりかねません。

キッチンや建具など、既製品の中でも適したものがあれば、そこで浮いた金額を自分の考える主役に集中して使うことができるかもしれません。 例えば、既製品キッチンでも腰壁を高く設けることで生活感とともに目立ちにくくする方法も一つです。

土地に家を合わせ、家に家具を合わせ、家具に暮らしを合わせていくと、どんどん理想の暮らしの幅は狭まっていきます。 一度、理想の暮らしベースで考え、道具として家具や照明をイメージして、それが 活きるカタチで家づくりを進めていくというのも選択肢の一つです。

本来の理想通りとはいかない部分はも必ず出てきます。そこで、自分自身に合ったよりよい妥協点を見つけていくことも心地よい空間づくりのポイントです。

いつの間にか、家を建てるためにインテリアを選んでいるとならずに、理想の暮らしのために選んでいることを忘れずに、心躍る暮らしの想像を膨らませながら楽しんで空間づくりをしていただけると幸いです。


執筆者プロフィール

駒井佑至
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ「空間コンダクター」。インテリアの提案や家具デザイン、リノベーションの設計など、空間づくりに携わる。インテリアの話題を発信するInstagramアカウントも注目が集まる。
Instagram:@yushikomai

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