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住空間学②|「完璧な家」は存在しない

インテリアを考えるコラム【住空間学】
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ〈空間コンダクター〉駒井佑至が語る、美しい暮らしとなる〈住空間〉とは。


今回のコラムでは「家づくりの優先度は人によって大きく変わる」ことについて掘り下げてお話します。

家づくりの対話の中で僕は「施主力」という言葉をよく使います。あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、この力は家づくりにおいて欠かせない力です。施主力さえ持てば、家づくりは必ず良いものになるといっても過言ではありません。

さて皆さんは、いよいよ家づくりをしようというとき何から始めるでしょうか。

本を読んで学ぶ、住宅展示場を見に行く、Instagramなどを見てイメージを膨らませるなど始め方は色々ありますが、ここで注意しないといけないのは、何かしらの情報を得たときに、それと相反する情報から遠ざかってしまう場合があることです。

ここで登場するのが、施主力です。

施主力に明確な定義はありませんが、僕自身は「柔軟で多様な考えを持ち、固定観念を捨てて人を信頼し、家づくりを楽しむ力」と捉えています。

家づくりは人生で一番のお金を使うことも多く、誰しも「失敗したくない」と考えます。その思いから、守りの姿勢となってしまうのは仕方のないことです。

しかし、過度な守りの姿勢は、皆さんから柔軟な心を失わせがちです。

その時に見ている情報につい目がいってしまい、自分自身にとって本来そんなに優先度が高くないトピックを、つい優先的に考えてしまう可能性があります。

ここで一度立ち止まり、自分自身の「理想の暮らしへの思い」に立ち戻って、それをベースとして何を優先すべきか柔軟に考えてみることが大切です。

そして、いろんな情報に簡単にアクセスできる現代では、知らず知らずのうちに家づくりに関しての固定観念も生みやすいです。

固定観念は世の中に溢れる「平均的な家」と近しいことも多いため、家づくりの対話の中でも否定しづらく、空間やデザインのもつ多様な可能性を狭める原因になることがあります。

「○○は、普通✖️✖️だろう」といった当たり前をいったん無しにして、イチから自分自身の理想の暮らしを考えてみる力が家づくりの可能性を広げます。

「家に住むのは冒険だ」という建築家 安藤忠雄の言葉が端的に示すように、新しい暮らしとの出会いのためには、今までになかった全く新しい考えが必要なときもあります。

これらは、すべてを自分自身で考えるという意味ではありません。家づくりでは、時にはプロを信頼して任せることも大切です。

自分自身の理想を手放さずに「任せきらずに任せる」

これを意識をするだけでも、自分自身にとって必要な情報に時間をかけて、家づくりとゆっくりと向き合う時間ができ、これまで以上に自然で楽しい打ち合わせになっていくと思います。

家づくりとは、世間の常識には左右されずに、自分自身の理想の暮らしをイチから考える機会でもあるのです。

施主力を高める具体的な一歩目として、家づくりを「コスト・性能・デザイン」の3本柱で見つめてみてください。

この3本柱は時に、あちらを立てればこちらが立たずという状態になります。

一般的には、コストダウンを重視し過ぎると性能やデザインの質は下がりやすく、そして性能を重視し過ぎるとコストは上がり、素材やデザインの幅には制限が生じやすくなります。

デザインを重視し過ぎるとコストは上がり、性能は下がりやすいものです。

もちろん、最適バランスを見つけ提案することがプロの責務ですが、それぞれの会社には強みもあれば弱みもあります。どの会社も強みをアピールすると、それ以外の部分は目立たなくなっていきます。

利点は間違いなく耳にすると思いますが、その影に隠れた欠点を見逃さないでください。

この3本柱のバランスは、理想の暮らしの在り方でグラデーションの様に変わっていきます。

前回お伝えしたように、その家で暮らすのはのは皆さん自身です。

「自分にとってのベストバランス」を探すことを何より意識してください。

それぞれの優先度は、作り手の都合ではなく、自分たちの中にある思いによって決まるのです。

皆さんは、3本柱の最適バランスを見つける可能性をプロ以上に秘めていることに自信を持って欲しいのです。

それでは、3本柱を意識した上でどんな作り手を選んでいくか。

どの施工会社もコスト・性能・デザインの話はしてくれますが、本当に選ぶべきなのは「バランス感のある作り手」です。実際の空間の満足度を左右する家具や照明、カーテン、小物などといった、空間づくりの細部のコストバランスまでユーザー目線で気にかけてくれる工務店や設計事務所は、選んで間違いないと思います。

「バランス感のあるところは強い」のです。

せっかく貴重なお金も時間も使うのですから、空間すべてを大切に使って欲しいし、飽きても欲しくはありません。

「今はこれが流行ってます」というものに左右される必要はありません。

流行にとらわれた家づくりをすると、少し経つと「あの時、流行ったよね」と感じ、ローンの半分くらいしか暮らしてないのに愛着がなくなって、家はただの住処と化し、家具は買い替え…なんてことになるのは避けたいです。

奇をてらうものよりも、今後の人生の中でずっと愛せて育てていける家を一緒につくりあげていきたいです。

「完成」を家づくりのピークにしないことが大切です。

家は、そこで暮らす人が心地よいと思い続けられなければ意味はありません。

作っているときだけの感情ではなく、20年後にも同じ空間に居る自分を具体的に想像できるような家づくりにしていきましょう。

家づくりの様々な要素は、金額やスペックだけでは表せない素晴らしいものばかりです。
次回からのコラムでは、その要素について具体的にお話させていただければと思います。

この世に「完璧な家」など存在しません

皆さんが家を作る際は、今回お伝えした「施主力」と「家づくりの3本柱」をぜひ意識してみてください。

それを意識するだけで、完璧な家でなくても、家づくりに関して皆さんがした選択の理由がよりはっきりし、満足度は高まり、空間がよりよい理想の暮らしに近づいていくと僕は信じています。


執筆者プロフィール

駒井佑至
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ「空間コンダクター」。インテリアの提案や家具デザイン、リノベーションの設計など、空間づくりに携わる。インテリアの話題を発信するInstagramアカウントも注目が集まる。
Instagram:@yushikomai

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