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住空間学⑤|家具との出会いは人との出会いと同じ

インテリアを考えるコラム【住空間学】
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ〈空間コンダクター〉駒井佑至が語る、美しい暮らしとなる〈住空間〉とは。


 

みなさんは「家具」と聞いて、どのような印象をもちますでしょうか。

暮らしの道具、美術品、あるいは、家の付属品など、人によってさまざまな思いを寄せるものだと思います。

もしかすると、なかには特別に意識したことすらなかった方もいるかも知れません。

ぜひ、この機会に家具について少し立ち止まって考えてみてください。

家具=道具であることを意識する。

普段、趣味や仕事でよく使うような道具はありますでしょうか。きっとその道具は、使い馴染み、新品の時にはなかったような汚れや愛着があるはずです。

また、ときには気に食わない部分も持ち合わせているかもしれません。

それと同じように、家にも道具として家具が存在しています。

家具は読んで字のごとく「家に備える道具」ですが、こうして「道具であること」を今一度意識するだけでも少し違った見え方をしてくるかもしれません。

家が在るための家具なのか、家具が家に在るのかといった相対的な話ではなく、常に家での暮らしには家具が寄り添っています。

ときに私たちのいう「家での暮らし」は「家具をつかうこと」を指していることもあるのではないでしょうか。

 

いつもより少し早く起きた朝、たまにはゆっくり朝食をと、ベッドから出て椅子に腰かける。

コーヒーの匂いに包まれながら、何も考えずにぼーっと窓から差し込む光を眺める。

そのとき家具は、いつもと変わらない日常の空気を纏(まと)い、今日も何事もなく自分の家で過ごせていることを感じさせてくれます。

またある時は、いつもより活動的な一日を過ごし、少し遅く家に帰宅する。

「今日は大事にとっておいた好きなものを食べよう」と優しく光が灯されたダイニングでひと息つく。

そのとき家具は、誰にも左右されない自分だけの特別なひとときを過ごす「贅沢さ」を感じさせてくれます。

家具と人との関係性。

みなさんの家には、暮らしの中で無意識に身を預けてしまうような場所はありますでしょうか。

トイレであったり、お風呂であったりする方もいれば、家具が思い浮かぶ方も少なくないと思います。

人がもつ感覚というのは自分で思っている以上に繊細で、常に見たものや触れたものの感覚を感じとりながら過ごしています。

だからこそ無意識に見惚れてしまうような、あるいは身を落ち着けてしまうような居場所が家にあることは、暮らしのひとときを特別なものにしてくれます。

こうした無意識に心地よさを感じてしまうような「お気に入りの居場所」が日常の中にあるのとないのとでは、日々過ごす時間の使い方も少しずつ変わってくるのではないでしょうか。

きっと、私たちが目指している家づくりというのは、そうした安心して身を預けられ、自分の居場所を感じられるような空間づくりの積み重ねなのだろうと思っています。

このような私たちと家具との関係は、人と人との関係に近いものだと感じています。

優しく言葉をかけ居場所を感じさせてくれる人、ときには厳しく自分を正してくれる人、同じ目標に向かって邁進する仲間など、人は常に自分以外の誰かに刺激を受けながら暮らしています。

誰と過ごそうとも時が過ぎていくことには変わりありませんが、そのひとときを誰と過ごすかで自分の感覚や気持ちは徐々に変わってきます。

人との出会いの積み重ねが、人生の目標や方向性さえも変えてしまうことすらあります。

そのようにして家具と過ごすひとときは、無意識に自分の日々の考えや些細な物事への温度感を変えていく可能性をもちます。だからこそ「自分に合っているかどうか」も、今まで以上にゆっくり見つめてみないと気づかないかもしれません。

見た目やデザインは気に入りながら座りづらく感じていた硬い椅子も、その座り心地がある人にとっては学校の勉強机や椅子を思い出させ、日々の集中力を上げてくれる人生のパートナーになることもあります。

また、ある人にとってはふかふかのソファが緊張した空気感の応接室を思い出させ、落ち着かないと感じるものでも、ほかのある人にとってはそのふかふかとした感触が身体全体を安心感で包み込み、自分だけの時間を育んでくれる生涯のパートナーになることもあります。

この「自分のもつ感覚」だけは、プロがどれだけ研鑽を積もうとも得られない、本人の中だけにある大切な感覚です。

こうして家具選びの際に、見た目や機能、デザインなどに対する自分の感覚と向き合うこと自体も、人生で感じる物事への温度感を左右していくかもしれません。

理想の家具と出会うために。

これから先、どんな家具を置こうか、どんな空間にしようかと、自由に考える機会は生涯のうち何回ありますでしょうか。

それが新築や改築であれ、引越しであれ、私たちが得られる機会というのはそう多くはないはずです。

そのとき、誰しも理想の空間を思い描きながら家具を選んでいくと思いますが、きっと何かを真似しても理想とする空間にはならないでしょう。

友人の家、インテリア雑誌に掲載される憧れの空間、SNSで見かけた誰かの住まい、どれも空間づくりをする手本にはなっても、自分の正解には辿りつきません。

「家具選びは人との出会いに近しいもの」

理想とするものを追い求めても自分の満足に辿り着かないこともあれば、理想をつかんだと思えばすぐに理想自体が離れていくようなこともあります。

頭で考えて選ぶ以上に、人の感覚や感情は繊細。だからこそ人も家具も、理想を追い求めて完璧に何かをなぞったとしても、最後には少しの違和感が残るのです。

家具は、一度手にすれば生涯をともにできるように長持ちするものばかりです。

車や衣服のように「次はこうしよう」と考える機会もそれほど多くありません。

だからこそ、自分を外側から見つめて勧めてくれる人の存在が必要であり、自分自身が何に心躍るのか感情を見つめる過程も欠かせません。

私たちは常に、居場所や心地よさを感じるような、人生のパートナー探しを愉しんでいるのかもしれません。

全てが理想ばかりにはいきませんが、これが好きと思えるものはきっと近くにあるはずです。

そしてそれは、不満を抱えながらも愛着が増していくような存在になっていくことでしょう。

何気なく過ごす毎日、貴方の側には生涯のパートナーと思える家具はありますでしょうか。

これから先、ときが経ち色褪せたとしても、手入れしながら愛着が増していくような「お気に入りの家具」と出会っていただけると幸いです。

みなさんは「家具」と聞いて、どのような印象をもちますでしょうか。

「あなたのお家に家具はありますか?」と問いかけたなら、ほとんどの方が「YES」と答えるでしょう。それくらい「家」と「家具」は、切っても切り離せない関係にあります。

家の間取りに対して、どんな配置で、どんな大きさのものを選ぶかによって生活動線は変わり、なにを選ぶかどうかは生活スタイルにも影響してきます。

みなさんの中には、レンジ台の幅がわずか数センチ大きかっただけで、食器棚と同じ並びに置けなかった。部屋の広さに対してソファが大きく、テーブルとの距離が近くなりすぎた。そんな経験をした方もいるのではないでしょうか?

大は小を兼ねるということは、家具に関していえば当てはまりません。生活動線の無駄を省くためにも、適正な寸法の家具を選ぶのはとても大事なことなのです。

 


執筆者プロフィール

駒井佑至
空間デザイナー、インテリアデザイナーの資格を持つ「空間コンダクター」。インテリアの提案や家具デザイン、リノベーションの設計など、空間づくりに携わる。インテリアの話題を発信するInstagramアカウントも注目が集まる。
Instagram:@yushikomai

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